会社員は就業規則で副業が制限され、公務員は国家公務員法等の法律の職務専念義務の関係で副業が禁止されています。こうした規制を緩和するよう中小企業庁が提言をしています。省庁の取り組み次第では副業や兼業がもっとポピュラーなものになるかもしれません。
中小企業庁の経済産業政策局産業人材政策室は2017年3月に「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して ~」(以下、研究会提言といいます)を公表しました。
「パラレルキャリア」とは、経営学者ピータードラッカーの「明日の支配するもの(1999)」の中で、「個人の寿命が企業の寿命より長くなった今、人は組織のみに頼らず、それとは別に第2のキャリアを並行して始め、新しい世界を切り開いていくべき」という趣旨で使用されているキーワードですが、この研究会提言では第二のキャリアを「創業・起業等」で形成していくという趣旨で使用しているそうです。
個人の平均健康寿命が伸びたこともあり、勤務先を定年退職した後も起業等で第二のキャリアを築く流れを作り、産業活性化を図りましょうということのようです。
これは単に「定年後に起業しよう」という呼びかけでは無く、それに備えて現役中にも本業の他に副業・兼業を行いやすい環境を作り、本業と並行して副業・兼業の助走を始めようという積極的な旗振りがされています。
そのための範を示すには、公務員が率先して兼業・副業を解禁するべきという意見も出されたようです。
その実現可能性はかなり難しいでしょうが、確かに中央省庁職員に兼業・副業が解禁されたらインパクトは絶大ですね。
なぜ中小企業庁がサラリーマンの副業・兼業を勧めるかといえば、日本が少子高齢化のトレンドの中で経済規模も縮小していくことが明かであり、新しいビジネスの芽を作り出していかなくてはならないという危機感があるからでしょう。
副業・兼業が新規創業につながっていけば、新たな雇用も生まれるという期待もあるようです。
個人レベルでは、古い体質の会社で新たなビジネススキルを磨く機会も与えられず腐ってしまうのはもったいない話であり、それならリスクも少ない副業で新たなチャレンジをして社会貢献もしましょうということだと思います。
産業全体で見渡しても、倒産する会社よりも新規創業する会社の方が多くなって新陳代謝が活性化しないと社会は発展しません。
しかし、総務省統計局「平成24 年度就業構造基本調査」によると、日本の起業活動指数については、3.8%(2014 年度)とOECD 諸国の中でも最下位であり、加えて、創業に全く関心がなく、むしろネガティブに捉える傾向があるとされる「創業無縁層」の割合が70.9%と欧米諸国と比較して非常に高い結果が出ているそうです。
これでは経済産業省や中小企業庁がいくら新規創業を唱っても、その実現は絵に描いた餅というしかありません。
また、全就業者のうち副業をしている就業者は約234 万人(3.6%)、副業を希望する就業者は約368 万人(5.7%)だそうです。
研究会提言では、仮に、副業希望就業者の10 人に 1 人(約37 万人)が新たなビジネスを始めたと仮定した場合、開業率を約14%押し上げると試算しています。
日本再興戦略においてはKPI(重要業績評価指標)として、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」こと、また、補助指標として、「起業活動指数1を今後10 年間で倍増させる」ことが目標設定されています。
そのためには開業率の14%押し上げは必達目標といえるものであり、その予備軍にあたる副業・兼業を希望する368万人が実際に副業・兼業をスタートできる環境を整備しようという話になるわけです。
そうすると問題となるのは本業にあたる勤務先が副業を容認してくれるかです。「リクルートキャリア」が2017 年2 月に発表した「兼業・副業に対する起業の意識調査」においては、「社員の長時間労働・過重労働を助長する」、「情報漏洩のリスク」等の理由から、「兼業・副業を禁止している」企業の割合は77.2%となっています(n=1,147 社)。
つまり、本業の勤務先の8割近くは従業員の過重労働や情報漏えいリスクを懸念して副業には反対する立場ということです。
以上を概観すると、日本のサラリーマンの終身雇用を求める意識、雇用者の副業への嫌悪感が副業への障壁になっているため、ここにメスを入れる必要があります。
そこで研究会提言では、企業(使用者)と従業員(労働者)にとっての副業・兼業のメリットとデメリットを下図のように整理しています。
企業(本業の使用者)にとっても、従業員が副業をすることにメリットが無ければ、なかなか副業を容認するという流れは生まれません。
そこで、副業を認めることで積極的な人材が育つこと、新たな知識や顧客が本業に環流される可能性があること、優秀な人材の流出予防にもなることを挙げています。
従業員にとっては、副業は所得増加、自身のキャリアアップ、自己実現の追求、創業に向けた準備期間の確保というメリットを挙げています。
こうした整理をしながら、研究会提言では「兼業・副業を考える個人が兼業・副業を妨げられる原因、または兼業・副業について関心を有することができない原因のうち、最大の原因は、現時点で、本業である企業が兼業・副業を就業規則等において原則禁止していることである」と結論づけています。
その対策として、「労働者が就業時間以外をどのように使うかということについては、労働者本人に委ねられており、労働者が就業時間外に兼業や副業を行うことも、また原則として労働者の自由の範疇にある。兼業・副業は、企業からの許可を得て行うのが原則とされるべきではなく、むしろ企業は正当な理由がなければ兼業・副業を制限することはできないものとされるべきである。」として、就業規則の副業禁止規定を撤廃することに言及しています。
具体的には、「現行、兼業・副業が原則禁止となっている厚生労働省のモデル就業規則の第11条を改正し、例えば、兼業・副業を原則禁止する場合(許可制等)に加え、禁止しない場合(届出制等)を明記すること等により、兼業・副業が原則自由であり、就業規則上の副業禁止規定は、その合理性について従業員に説明する必要が企業側にあることを周知・普及」していくと述べています。
更には公務員の副業・兼業規制についても検討をすべきとしています。そして、「公務員については、企業の就業規則等と異なり、国家公務員の場合は、国家公務員法で、地方公務員の場合は、地方公務員法において、信用失墜行為の禁止義務、職務専念の義務等の観点から、兼業・副業が原則禁止とされている。期限や部門を区切った上で、兼業・副業を試行的に解禁することにより、公務員の兼業・副業のモデルケースとして分析することが可能になる。」と述べています。
中央省庁が公式にこうした見解を示しているわけですから、副業・兼業を推奨して創業につなげる流れというのは徐々に一般化していくかもしれません。
そうした機運を高めるために「実際に兼業・副業を通じて創業・新事業を創出する兼業・副業を通じて創業・新事業を創出した個人の活動や企業の取組を事例集等で(国が)強力に情報発信する。」ことも提言されています。
そうした事例として、研究会提言内で以下の2つを公表しています。
先進事例に見る兼業・副業の具体的なメリットと課題の克服
兼業・副業を容認した企業の先進的な取組
現在の副業・兼業にシビアな環境でも、上図のような先進事例はあるということです。各事例の詳細は研究会提言で紹介されています。
徐々にですが副業・兼業を容認する機運も高まっているようです。
研究会提言では、「平成26 年度中小企業庁調査」においては「兼業・副業を認めていない」企業の割合は85.3%であったのに対し、「2017 年リクルートキャリア調査」においては「兼業・副業を禁止している」企業の割合は77.2%と低下している。ここ数年について述べれば、兼業・副業を容認する動きがみられると言っていいものと考える。」と分析しています。
この提言に基づいて厚生労働省のモデル就業規則第11条が改正されるなら、副業・兼業を巡る環境は一気に変わる可能性もあります。
ただ、副業や起業を志す人のマインドとして、「国が認めてくれたから副業を始めよう」というのでは寂しいものはありますね。
新しくビジネスを始めるには、苦境を自ら切り開いていく姿勢が必要であり、他者が環境をお膳立てしてくれるのを待っているようでは新規ビジネスの競争に勝てません。
筆者自身は、会社勤めと並行してネット起業し、その後に独立して、更に地方公務員(臨時職員)とネット営業の兼業をするという兼業人生を歩んでいます。
兼業を続けるには、本業の勤務先の理解が必要ですが、それには自身のスキルのを磨いて副業で実績を出し、勤務先との交渉で認めてもらうしかありません。
そうした交渉は苦労するものですが、少しづつ副業・兼業への風向きが変わりつつあるのは事実のようです。何よりも中央省庁で副業推奨の議論が進んでいるのは注目したいところです。
以上の流れを見ると副業・兼業という選択肢は確実に増えていくでしょう。会社員や公務員という立場を維持して試験的に副業を始めるには、やはりインターネットビジネスが最適と断言できます。なぜなら時間と場所の制約が無く、資金も少額に抑えることができます。
現在でも勤務先には内密にしてアフィリエイトやネット通販を実施している副業者は相当な数に上るはずです。法令によって副業解禁が実施されるときが来たら、そうした隠れ副業者もどんどん表舞台に登場してくるかもしれません。
筆者の個人的経験からも、インターネットビジネスに関するスキルを実践から学びとるのは、少ないリスクで得るものは多いと言えます。
定年退職後に起業するというビジョンも立派なことですが、早い段階からネットでテストマーケティングを実施して本格始動に備えれば、刺激的な毎日が送れることになるでしょう。
※本記事で挙げた統計数値および図表は全て「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」(中小企業庁 経済産業政策局産業人材政策室)より引用したものです。